日本ではこれまで多くの大規模地震が発生し、そのたびに通信障害や連絡手段の混乱、物資不足など、現場ではさまざまな課題が浮き彫りになりました。
この記事では、過去の地震で実際に起きた状況を振り返りながら、企業や学校が備えるべき防災体制のポイントを整理します。
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この記事で分かること
- 過去の地震被害から学び、事前の備えを進めることが重要
- 地震直後は通信が混乱し、連絡が取りにくくなる
- 初動で安否や状況を把握できる体制が必要
- 防災は、安否確認と情報共有の仕組みづくりが中心となる
- 訓練と見直しを重ね、実際に機能する防災体制を整えることが重要
過去の主要な地震と被害状況
日本ではこれまでに数多くの大規模地震が発生し、都市機能の停止、連絡手段の断絶、避難生活の長期化など、社会全体に深刻な影響を与えました。
特に企業や学校の運営においては、被害そのものだけでなく「情報が届かないこと」「状況が把握できないこと」から混乱が広がったケースも少なくありません。
以下では、代表的な 3つの地震を取り上げ、当時何が起き、どのような課題が明らかになったのかを整理します。
阪神淡路大震災|都市部で顕在化した建物倒壊と火災
1995年に発生した阪神淡路大震災は、近代日本で初めて「都市直下型」の大地震が甚大な被害を生んだ事例として知られています。
● 都市部特有の被害が集中
- 老朽化した建物の倒壊が連鎖
- 密集地帯で火災が多発
- 高速道路や鉄道の崩落など、交通インフラが広範囲で停止
当時のインフラ整備水準では揺れへの耐性が十分ではなく、都市部の脆弱性が露呈しました。
● 情報伝達の混乱
- 地域全域の停電でテレビ・ラジオが使えない
- 固定電話や携帯電話がつながりにくい状況が長時間続く
- 避難所の情報共有が遅れ、支援が届かない場所が発生
企業・学校ともに、安否確認が取れず初動対応が遅れたという記録が数多く残っています。
東日本大震災|広域被害と情報断絶の深刻さ
2011年の東日本大震災は、地震・津波・原子力災害が複合し、広範囲で前例のない混乱を生みました。
● 広域にわたる複合災害
- 建物・道路だけでなく、港湾・鉄道・空港などが広い範囲で被害
- 津波による壊滅的被害
- 停電が地域一帯に広がり、通信・物流を断絶
数百キロに及ぶ広い範囲が被災したことで、全国規模の物資不足や物流の遅れにつながりました。
● 安否確認と情報不足の深刻化
- 携帯電話・インターネット障害で連絡が取れない
- 災害関連情報が錯綜し、避難判断が遅れる場所が多数
- SNSの誤情報が拡散し、混乱を助長
企業や学校では、
「従業員・生徒の行方が把握できない」
「保護者との連絡がつかない」
など、連絡手段の整備不足が致命的な課題となりました。
熊本地震|繰り返し発生する余震の脅威
2016年の熊本地震は、短期間に強い揺れが連続して発生した特異な地震として記録されています。
● 強い地震が連続発生
- 震度7の地震が前震・本震の2回発生
- 建物の損傷が余震によって致命的になるケースが多発
- 避難所の増加や生活環境の悪化が深刻化
この経験は、
「1回の揺れだけで判断しない」
という防災意識を全国に広めました。
● 通信障害と現場混乱
- 電話やメールがつながりにくい状態が長時間続く
- SNSに頼りすぎると誤情報に惑わされるケースが発生
- 避難判断が揺れの継続で難しくなる
企業・学校では、
「余震が続く中で職員・生徒をどう守るか」
「どこの避難所が安全かをどう判断するか」
といった 運営上の難しさが浮き彫りとなりました。
震災時に発生した現場の課題
大規模地震が発生すると、被害の大きさよりも早く問題となるのが、現場での混乱です。
情報が断たれ、安否が確認できず、支援の遅れが生じる。こうした課題は、どの地域・組織でも共通して起こります。
ここでは、過去の震災で実際に浮き彫りとなった「3つの現場課題」を取り上げます。
安否確認が取れない問題と連絡手段の混乱
地震直後、多くの人が家族や職場、学校と連絡を取ろうと一斉に通信を利用します。
その結果、回線が輻輳(ふくそう)し、電話もインターネットもつながらない状態に陥ります。
この通信障害は数時間から数日続くこともあり、最も多くの混乱を引き起こします。
● 現場で起きた混乱の実例
- 学校では、学生の安否が分からず保護者の不安を煽ってしまう
- 企業では、社員の安否が不明のまま業務再開の判断ができない
- 公共交通が止まり、出勤・帰宅の指示が伝わらない
とくに企業や教育機関のように「多人数を管理する立場」にある組織では、個別連絡の限界が顕著です。
一人ひとりに電話をかける、メールを送るといった方法では、数百名規模では対応しきれません。
● 対応のポイント
- 通信回線が混み合っても使える複数手段(アプリ・掲示板・SNS)を確保する
- 事前に「誰が・誰へ・どの方法で」連絡を取るかをルール化しておく
- 緊急時の返答がない場合の扱い(再送・別経路確認など)を明文化しておく
通信の確保は、単に「つながるかどうか」ではなく、組織の判断スピードに直結する要素です。
SNSの誤情報と正しい情報収集の難しさ
地震発生時、多くの人がSNSを通じて情報を得ようとします。
確かに速報性は高いものの、誤情報やデマの拡散が極めて速いのもSNSの特徴です。
● 震災時にSNSで起きた問題
- 「〇〇駅が倒壊した」「津波が来ている」などの誤投稿が拡散
- 出所不明の画像や動画が共有され、混乱を助長
- デマ情報をもとに避難行動を誤るケースも発生
過去の震災でも、現地の混乱に乗じた偽情報が短時間で全国に広がりました。
その一方で、SNSは被災地のリアルな声を届ける貴重な情報源でもあります。
つまり、問題はSNSそのものではなく、「正しい情報を選び取る力」にあります。
● 組織としての情報収集体制
- SNSの情報は公式発表(気象庁・自治体・内閣府防災など)と照らし合わせて確認
- 組織内で「公式情報の確認担当」を決めておく
- 社員・教職員に「SNS投稿ルール」を事前周知しておく(誤情報拡散の防止)
企業や学校にとっては、情報を受け取る側と発信する側の両方のリテラシーが問われます。
物資不足・生活環境の悪化による影響
地震の規模が大きく、復旧まで時間がかかる場合、現場では物資不足と生活環境の悪化が深刻になります。
特に避難所や一時滞在施設では、限られた空間に多くの人が集まるため、衛生・健康・プライバシーの問題が発生します。
● よく発生する課題
- 飲料水・食料・生活用品の不足
- トイレの混雑や衛生面の悪化
- 医療物資・衛生用品の不足による体調不良
- 長期避難によるストレスや体調悪化
これらの課題は、どの地域でも共通して繰り返される傾向があります。
● 組織としての備え
- 3日〜1週間を目安に、最低限の物資を分散備蓄する
- 職員・生徒・社員ごとの滞在想定をもとに備蓄量を計算
- 自治体や近隣組織との連携(相互支援協定)を整備しておく
備蓄は単に物を揃えることではなく、「誰のために・どこで・どの順で配るか」まで含めて計画することが大切です。
過去の経験から学ぶ地震発生直後の適切な行動
地震が発生すると、状況を冷静に把握する余裕がなくなるため、「何を先にやるべきか」が曖昧になりがちです。
過去の震災では、この初動の遅れが混乱の拡大につながる場面が多く見られました。
ここでは、個人・企業・学校それぞれの立場で「地震発生直後にとるべき行動」を整理します。
個人がまず守るべき初動行動
地震発生から最初の1〜2分は、命を守る行動が最優先です。
過去の災害では「揺れの最中に移動してケガをするケース」が多く、最初の判断がその後の安全を左右します。
● 1)身を守る姿勢を取る
- 頭を守る(机の下に入る・クッションやカバンで保護する)
- 無理に移動しない
- 倒れそうな家具・ガラスから離れる
揺れが収まる前に動くことが最も危険です。
● 2)火災・ガス・電気の安全を確認
- キッチンの火元を止める
- 家の中のガス臭やブレーカーを確認
火災は二次被害として最も多いリスクの一つです。
● 3)家族・周囲の状況を確認
- 家族の安全を確認
- 高齢者・子どもの状況に注意
ただし、通信回線が繋がりにくいため「連絡がつかなくても焦らない」ことが重要です。
● 4)避難の必要性を冷静に判断
- 建物の損傷
- 火災
- 津波警報
特に海沿いでは「揺れが強かった場合はすぐ高台へ」が基本となります。
企業・職場に求められる初期対応
企業や組織が直面するのは、従業員の安全確保と業務判断の即時対応です。
過去の震災では「情報が揃わない状態で意思決定が求められる」ことが大きな課題になりました。
● 1)従業員の安全確保を最優先
- 建物内の転倒・破損状況を確認
- 危険があるエリアへ近づかないよう誘導
- ケガ人がいないかの確認
無理な避難や出勤は、さらなる事故を招きます。
● 2)安否確認と状況把握
- 連絡がつかなくても「不在=危険」と判断しない
- 事前に定めた安否確認ツールや掲示板を使用
- 本社・拠点間で情報共有
複数の連絡手段を事前に決めておくことで混乱を最小限にできます。
● 3)出勤・帰宅判断の明確化
- 地震時のトラブルで最も多いのが「出勤してよいのか?帰宅してよいのか?」という判断の遅れです。
- 交通機関の停止状況を確認
- 徒歩帰宅による二次被害の懸念(暗所・倒壊家屋)
- 全社員一斉帰宅ではなく「待機」判断も重要
過去の震災では、一斉帰宅が混乱を招いたケースがあり、動かないことが安全という判断も必要でした。
● 4)事業継続・復旧に関する初期判断
- 社内システム・設備の確認
- 顧客への最低限の連絡
- BCP(事業継続計画)に基づいた対応
この段階では完璧な判断より「大きなリスクを避ける」ことが優先です。
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学校・教育現場での安全確保と保護者対応
学校は、災害時に大人数の未成年を預かる特性があるため、企業とは異なる判断が求められます。
● 1)学生の安全確保が最優先
- 倒れやすい棚・窓から離す
- 机の下に潜るなどの初動行動を徹底
- 校内設備の損傷状況を確認
揺れの大小に関わらず、まずは「その場にいる全員の安全の確保」が基本です。
● 2)校内の被害状況をすばやく把握
- 校舎や体育館の損傷
- 通行できない場所の確認
- 校内放送・連絡網を使った情報共有
特に古い校舎では落下物やひび割れの確認が重要です。
● 3)保護者対応の明確化
- 地震発生時、保護者は「子どもが安全かどうか」を最も心配します。
- 災害時の対応を保護者へ事前共有しておく
- 生徒の引き渡し方法の明確化
- 校庭・体育館など安全エリアで待機させる
しかし地震時は通信がつながりにくく、連絡が遅れることは避けられません。
そのため、事前に
「連絡が遅れる可能性がある」
「連絡が来るまでは迎えに来なくてよい」
「登下校中の対応」
など、保護者と共通認識を作っておくことが最も重要です。
地震に備えるための組織体制づくり
地震は予測が難しく、発生した瞬間から数時間の初動が組織全体の安全と運営に大きく影響します。
そのため、日頃から「どの手段で連絡を取り、誰が判断し、どんな行動をとるか」を明確にしておくことが重要です。
ここでは、企業や学校が地震に備えて整えるべき3つのポイントを整理します。
複数の連絡手段を確保する重要性
大規模地震が発生すると、電話回線・メール・インターネットなど、主要な通信手段の多くが障害を受けます。
過去の地震では「1つの連絡手段だけに依存していた組織ほど、情報把握が遅れた」ことが課題として繰り返し指摘されています。
● 1つの手段では必ず限界が生まれる
- 電話:回線輻輳でつながらない
- メール:送信はできても届かない・遅延が多発
- SNS:誤情報が混在し、正確性の確保が難しい
- チャットツール:アプリ通知が届かない、ログイン不能など
どれも万能ではありません。
● 組織が備えるべき連絡手段の組み合わせ
- 安否確認システム(自動通知・一斉配信)
- 災害用伝言板・災害用ダイヤル
- SNS・メール・社内チャットの併用
- 掲示板・紙ベースのバックアップ手段(学校では特に有効)
複数の手段を同時に使える状態にしておくことで、どれかが使えなくなっても最低限の連絡機能を維持できます。
● 事前にルール化しておくことが不可欠
- 「地震発生時はまずAシステムで安否確認」
- 「Aで確認できない場合はBに切り替え」
- 「通信障害の場合はC(掲示板・校内連絡)を利用」
こうした多段階の連絡フローを決めておくことで、混乱を大幅に減らせます。
BCPで定めるべき初動判断と役割分担
BCP(事業継続計画)では、地震発生直後の「誰が、何を、どの順にやるか」を決めておくことが最も重要です。
過去の震災では、判断基準が曖昧な組織ほど混乱し、初動が遅れて被害が拡大したケースが多数あります。
● 初動で必ず決めるべき事項
- 出勤可否の判断基準
(「公共交通が全停止=出勤不可」「徒歩圏のみ出勤」など) - 安全確認の優先順位
(従業員 → 施設 → 業務の順にチェック) - 本部・現場の指揮系統
(最終判断者と代行者を事前に決定)
初動の迷いをなくすには、判断基準を細かく決めておく必要があります。
● 役割分担を明確にしておく
- 安否確認担当
- 設備点検担当
- 情報収集担当
- 対外連絡(保護者・取引先)担当
- 避難誘導担当
役割が曖昧だと、全員が同じ作業に集中し、肝心な情報が集まらない状況が発生します。
● 学校では保護者連携の体制整備が必須
- 連絡がつかない前提での「引き渡しルール」
- 登下校中の緊急対応ルール
- 保護者の迎えが遅れる場合の待機場所・管理方法
地震時は保護者の不安が高まりやすいため、事前共有が必須です。
地震訓練シナリオ作成のポイント
訓練は「やったことがある」ことよりも、
実際に起こり得る状況を前提に作られているかが重要です。
● 過去の地震をもとに「現実的なシナリオ」を作る
- 通信障害で安否確認が取れない
- 複数拠点で被害状況が異なる
- 強い余震が続くため避難判断が難しい
- 帰宅困難者が出る
- 保護者からの問い合わせが殺到する
これらは過去の震災で実際に起きた問題であり、訓練シナリオの基礎として有効です。
● シナリオは「想定外」を含める
- 連絡担当者が不在の場合
- 訓練用システムが使えない場合
- 主要ルートが封鎖された場合
誰か1人が欠けても運用できる体制が求められます。
● 訓練後の振り返りが重要
- 想定と実際のズレ
- 判断の遅れが発生したポイント
- 連絡が届かなかった人数
- 生徒・従業員の動きで課題になった点
毎回の訓練を改善に活かすことで、現実に近い対応力が鍛えられます。
まとめ|過去の震災から未来の備えへ
日本では大規模地震が繰り返し発生し、そのたびに社会の脆弱性や組織の課題が露わになりました。
通信障害による連絡断絶、誤情報の拡散、物資不足、出勤判断の混乱など、これらは地域や組織の規模に関わらず必ず直面する問題です。
過去の震災を振り返ることは、「次に起こるかもしれない状況」を具体的に想像し、備えを実行するための最も有効な手段と言えます。
大規模地震の教訓から見える“備えの本質”
震災の教訓から明らかなのは、
「被害そのもの」よりも、「情報が断たれること」によって混乱が拡大するという点です。
- 連絡が取れず、安否確認が遅れる
- 判断材料が不足し、対応が後手に回る
- SNSの誤情報で行動を誤る
- 必要な物資が届けられない
つまり、防災の本質は「災害を避けること」ではなく、
止まらない仕組みを平時からつくっておくことにあります。
備えとは、物資の準備だけではありません。
連絡手段の多重化、判断基準の明確化、現実的な訓練の積み重ねが、混乱を最小限に抑える鍵になります。
企業・学校に求められる継続的な防災体制の強化
企業や学校は、多くの人の安全を預かる立場にあります。
そのため、防災対策は「一度整えれば終わり」ではなく、組織の成長や環境の変化に合わせて継続的に見直す必要があります。
- 連絡網や安否確認手段が最新の状態か
- 新入社員・新入生に防災ルールが共有されているか
- 出勤・帰宅の判断基準が明確か
- 訓練が現実的なシナリオに基づいているか
- 学生(保護者)・従業員とのコミュニケーション体制は整っているか
- これらを定期的に見直すことで、組織としての“対応力”が確実に高まります。
過去の震災は、未来に備えるための重要な指針です。
今できる準備を積み重ねることで、次に大きな揺れが訪れた際、
組織全体が迅速に、そして確実に動ける体制を築くことができます。



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